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わくわく挿絵帖
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猪牙舟(ちょきぶね)
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 時代小説を読んでいると猪牙舟がよく出てきます。猪牙舟とは舳先(へさき)を猪の牙のように尖がらせた細長い川船です。隅田川に浮かぶ小型タクシーといった存在で、また早く走るために作られたためやや安定性に欠く側面もありました。北斎や広重などの錦絵によく描かれ、江戸を代表する風物のひとつです。

 ところがこの猪牙舟、映画やテレビに出てくることはほとんどありません。戦前戦後の時代劇映画全盛時代でもそうでした。理由は時代劇が京都で撮影されるのが普通だったからといわれています。京都には川舟の伝統が残っていたのが仇となったようです。

 ぼく自身も本物は深川の資料館で見たぐらいの記憶しかありません。勿論それは復元された舟です。そのときの見た記憶をたどると、なんとなく違和感があったのを覚えています。それは江戸の絵師が好んで描いた猪牙舟と印象が少し違ったからです。全体が鈍重で舳先も青龍刀を思わせるような流麗さが足りなく思えました。しかし、ぼくは北斎はじめ江戸の絵師はよくデフォルメして描くので、そのせいだろうとそのときは納得しました。

 それからこの商売を始め、様々な浮世絵を見ているうちに、北斎たちのデフォルメはまんざら嘘でもないように思えてきました。理由は江戸の川舟の舳先は一部の種類(渡し舟など)を除いて、ほとんどが猪牙の形をしていることに気が付いたからです。よほど江戸人はこの形が好きだったのでしょう。猪牙舟は江戸の粋人が吉原に行くとき仕立てる舟です。相当格好よかったに違いありません。江戸の粋を集めた川舟が猪牙舟ではないかと推察すると、デフォルメもまんざら嘘でもなく、ケレン味たっぷりの形をした舟ではないかと思うに至ります。なかばぼくの妄想です。
 
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by arihideharu | 2010-07-12 04:09 | 映画・演劇 | Comments(2)
Commented by SABA.U1 at 2010-07-12 14:07 x
初めてコメントさせていただきます。今はどうか知りませんが、20年くらい前は、日活撮影所の中にある小さな壕に猪牙舟が一艘舫っていた憶えがあります。もちろん復元物ですが、形はどうだったろうな・・・。
Commented by arihideharu at 2010-07-13 16:42
貴重なお話、有り難うございます。実は絵描きにとって舟は難物で、それはなかなか本物を見る機会がないからです。これを機会に、舟に注目して古い時代劇を見ようと思います。
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