ブログトップ | ログイン
わくわく挿絵帖
sashieari.exblog.jp
「赤ひげ」における帯締め
b0185193_18405234.jpg


 黒澤明の映画「赤ひげ」でドラマ前半で内藤洋子演じる武家の娘が、加山雄三演じる青年医師を小石川養生所に訪ねるシーンがあります。若き内藤洋子が可憐に演じているアレです。髷はきりっと島田に結い、帯も文庫に結んでいます。そしてその帯には白く太い丸ぐけの帯締めが結ばれています。

 実はこれは結構重要なことで、あるいは事件だとぼくは思っています。それは時代考証にうるさかったと思われている黒澤明がこれを許しているからです。これとは帯の上から結ぶ帯締めのことです。

 というのは江戸時代は帯締めはしないというのが基本だからです。それは多くの錦絵を見ても分かります。帯締めをしている絵を探すのは相当骨が折れます。ないわけではありません。まれに幕末期の芝居絵や大奥をテーマにしたものに丸ぐけの帯締めをしたものがあります。一般の女性の中にそれを見つけるのはさらに大変になります。ただ、明治まで数年を残した幕末を撮った写真を見ると組み紐の帯締めをした女性がちらほら見つかります。

 時代考証家で映画にもたずさわった林美一さんの「時代風俗考証事典」を見ると、嘉永以前に帯締めの資料はないそうで、鞍馬天狗や新撰組の映画ならともかく、それ以前の時代設定では許されないと書かれています。また嘉永以降でも御殿女中に限られるようだとも書かれています。
 とすると帯締めの使用は、幕末の嘉永以降と考えてイイようです。

「赤ひげ」における帯締めの使用は内藤洋子が演じる武家の娘だけではありません。香川京子が演じる狂女も歌舞伎の八百屋お七のように、振袖の着物に帯をふりわけにしてその上に太い帯締めをしっかり結んでいます。また内藤洋子の母親役の田中絹代は上等そうな帯の上に白い帯締めをきりっと結び、こちらは明治の上流婦人のようです。

 これはどうも確信犯的に江戸時代がもうすぐ終わることを感じさせるための演出ではないかと思えてきます。
 というのも映画の冒頭で加山雄三演じる青年医師に長崎帰りを表現するために舶来らしきマントを着せていますが、それと帯締めは呼応しているように見えるからです。

 しかし一方では林美一さんが「鞍馬天狗や新撰組の映画ならともかく」と指摘しているとおり、戦前のスチール写真をみると「鞍馬天狗」は勿論のこと、武家娘が太い丸ぐけの帯締めをしているのが定番のように出て来ますから、黒澤明は映画のしきたりに従っただけかもしれません。

 林美一さんが「時代風俗考証事典」を書かれたのは三十年以上前ですが、帯締めの誤用がいっこうに改まらないことを嘆いています。

 ぼくが映画「赤ひげ」における帯締めをとりわけ問題にするのは、黒澤映画で帯締めを許したのがこの事態を助長したのではと睨んでいるからです。買いかぶりでしょうか?


b0185193_524418.jpg

by arihideharu | 2011-12-11 19:51 | 映画・演劇 | Comments(0)
<< 謎の画家 小倉柳村 写生 >>