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わくわく挿絵帖
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春よ来い
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 春が近づいているのが嬉しいこの頃です。ぼくは雪国育ちですから、この春という季節にひとしおの思いがあります。

 ぼくが生まれ育った横手はかまくらの行事で知られる、非常に雪深いところです。思い出す冬景色は、一階のひさしに達するほど雪が積もり、すべての物が雪の中にすっぽり埋もれてた町並みと、それを取り囲む山々です。

 11月に初雪が降り、12・1月に積もり始め、根雪となります。3月にとけ始め、4月は残雪。長い長い冬です。ですから、春が誰もが待ち遠しいのです。

 3月頃だったと思います。年は12・3歳ごろ。ぼくはお使いを頼まれました。実家は商売をしていましたから、よくあることです。 
 
 昼下がりでした。その日はお日様がポカポカと暖かく、家の前のの道路は雪が大方とけアスファルトの路面も乾いていました。なんと嬉しいことでしょう。待ちに待った春到来です。
 
 ぼくは身支度を始めました。いつもなら、防寒着に手袋、そしてゴム長靴を履いて出かけます。お使い先の距離と、きょうの天気を計りました。それに春が来た嬉しさを加えます。ぼくは身支度をやめ、部屋着とサンダル履きで出かけることにしました。

 もう春爛漫の心持ちです。外は日差しがあり家の中より確実に暖かいし、自転車をこぐ気持ち良さったらありません。空を見上げると、冬は遠ざかり春の空の先にきらめく夏が待っているようです。
 
 しかし、それは大きい通りだけのこと、裏通りや路地はまだまだ冬が残っています。でも、負けてはいません。北国育ちの少年は、雪道の自転車乗りは慣れています。自転車をジクザクさせながら、難なく目的地に着き、頼まれ物を受け取りました。

 事件は帰り道に起きました。水溜まりになっていたワダチにハンドルが取られ自転車が倒れそうになったのです。ぼくは両足で踏ん張り、なんとか自転車を支えました。が、その拍子にサンダルの甲当てが切れてしまいました。ぼくの片足はサンダルから離れ、雪どけの泥水の中です。おまけにお使い物が入った配達袋が自転車かごから飛び出ています。裸足となった足で立ちながら、お使いものを改めました。幸い配達袋が少し濡れただけで中身は無事です。壊れたサンダルと一緒に自転車かごに入れ直します。

 ぼくはその後、裸足となった片足とともに自転車に乗り、雪の悪路では氷のように冷たくなった足で自転車を押しながら歩きました。

 気がつくと、何故か涙がこぼれています。なかなか止まりません。日は陰り始め、寒さが襲います。春がそこまでやって来ているのに、遠ざかって行きます。ちょっと切ない思い出です。

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by arihideharu | 2010-01-25 00:20 | 思い出 | Comments(0)
ソッソ ソクラテスもプラトンも
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 今年も受験シーズンがやって来ました。30年以上前になります。ぼくもまたその真っ只中にいました。

 地方出身のぼくは、東京近郊の親戚の家を頼り、宿としました。美大を目指していましたから、画材道具やらで荷物は膨らみます。その膨らんだ荷物の中には、数冊の文庫本も混じっていました。

 ぼくは受験の間、夜になるとそれをを引っぱり出しては読みふけりました。そして、帰郷するころには2冊の小説を読み終えました。
 
 野坂昭如・著「アメリカひじき・火垂るの墓」と深沢七郎・著「楢山節考」です。

 深沢さんは早くにお亡くなりになりましたので、読む機会がなくなりなした。しかし野坂昭如さんに関しては、その後もぼくは従順な読者であり続けました。

 ミニコミ紙から始まり週刊誌に掲載したエッセイ群は、あの独特の文体とともに異彩を放っていました。

その中で学んだ最大のことは「男は日和っていいんだ、変節していいんだ。」ということです。野坂昭如独特のレトリックであり、生き方です。

 それは戦前戦中の男たちが無謀な戦争に突入し、日和ることなく国を亡ぼしたことと関係がありました。
 
 「そう、日和っていいんだよ!」「ソッソ ソクラテスもプラトンも み〜んな悩んで 大きくなった!」とC調で歌っていた野坂さんを思い出すと、なんだか楽しくなります。

 野坂さんの八方破れな言動と颯爽とした姿が、テレビから消えたのは寂しい限りですが、時折ラジオで書たてのエッセイを聴くと、やはり野坂昭如はぼくらの輝く星だなと改めて思い直します。

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by arihideharu | 2010-01-15 23:17 | 読書 | Comments(0)
 女優、森光子のいとこの話。

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 女優の森光子さんが昨年、国民栄誉賞を受賞したのにともなって、テレビでインタビューを受ける機会が増えたように思います。それで思い出すことがあります。受賞直後のことです、こういうことが繰り返されていました。

 「女優になったきっかけは?」と問われると、森さんは「従兄に嵐寛寿郎という映画俳優がいまして…。」と答えます。するとそこに一瞬の間が生まれます。「嵐寛さんですネ。」と合いの手を入れるのはまれで、大概は「それで?」という顔で話の先を進めます。

 勿論、ぼくはそこで拍子抜けです。嵐寛寿郎といえば、かつては誰もが知っているチャンバラ映画の大スターです。実はぼくの最も好きな剣劇俳優でもあります。拍子抜けの意味はそこにあります。

 多くの剣劇俳優の中でも嵐寛寿郎ほど立ち姿の美しい役者はいませんでした。正眼に構えたときは勿論、困難な体勢から突きや胴をきめるときでも、背筋がピンと伸び、着物の裾が乱れませんでした。そして、乱れなかったのは着物ばかりではありません、顔がそうです。どんな場面でも破綻の表情を見せませんでした。

 無声映画時代のチャンバラヒーローの多くは無頼漢でした。無頼漢は顔を歪めながら死んでいきます。坂東妻三郎や大河内伝次郎の役柄です。いわゆる悲壮美です。

 嵐寛は鞍馬天狗を演じました。これは革命家でした。右門捕物帖では町方同心、これは刑事です。いずれも正義の人です。

 戦後、老いても多くの映画に登場しました。あるときは南の島で半裸で三線を弾き、またあるときは北の果ての刑務所で素っ裸で博徒のなかに混じって喧嘩をしていました。老残の姿です。しかし、いずれも輪廻転生した鞍馬天狗の勇姿でした。

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by arihideharu | 2010-01-14 02:10 | 映画・演劇 | Comments(0)
リュックの中身
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 ぼくの場合、一日の中で午後の数時間は、多くは原稿を読むことに費やされます。自宅で読むといつの間にか寝てしまうことが多いので、大概は近くのファミレスへ行って読みます。
 
 そのとき、原稿は小振りのリュックに入れ自転車や徒歩で出かけます。リュックの中には原稿の他には、筆記用具・デジカメ・文庫本数冊がいつも入っています。これがいわば、ぼくの七つ道具になります。
 
 文庫本数冊のうち2冊は何年も変わらず同じ本が入っています。それは三田村鳶魚の捕物の話と岡本綺堂の半七捕物帳です。この2冊は何度も繰り返して読んでいます。なぜなら江戸時代へタイムスリップするトンネルの入り口が口を開けて待っているからです。

 タイムスリップから戻ると、帰りにドラックストアやスーパーに寄りサブリメントや玉ねぎなどを買い、リュックに入れて帰ります。

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by arihideharu | 2010-01-12 00:01 | 挿絵 | Comments(0)
これはここ数年で、最大の事件
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座業である挿絵画家のぼくは基本的に一年中家の中にいますから、ともすれば年間を通じ電車に乗る機会が数回程度ということになります。ですから家族のものはぼくのことを、引きこもりと呼んでいます。

 そこで健康のためにも欠かせないのが散歩です。長い間続いていますが、ある時期から質がちょっと変わってきました。

 それはiPodで音楽を聴きながらするようになったからです。初めて散歩をしながら聴いたときは驚きました。その日は初秋の空に白い雲が浮かび、散歩日和でした。スイッチを入れると音楽が静かに流れました。天から音が降りてくるような錯覚にとらわれたのです。なんだかいつもの散歩道が映画のワンシーンのように思えました。

 ぼくは長らく音楽を聴く習慣をなくしていましたが、この時からまた始まりました。これはここ数年で、最大の事件かもしれません。

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by arihideharu | 2010-01-10 23:27 | 挿絵 | Comments(0)
初笑い
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 明けまして、おめでとうございます。本年が良き年になることをお祈り申し上げます。

 歴史小説家の宮本昌孝さんから届いた年賀状には、富士山の絵の下にこう書いてありました。
 
 歴女(レキジョ)ブームがつづいて、拙作にもハマる女性読者が日本中にあふれて、なんて空夢を見つつ….
 
 ぼくには無数の女性に追われて、悲鳴を上げながら倒れ込んでいく宮本さんの姿が、バスター・キートンのような動きで浮かび上がりました。

 これがぼくの初笑いです。
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by arihideharu | 2010-01-01 22:17 | 暮らし | Comments(0)