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わくわく挿絵帖
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着流しに二本差し
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 ぼくは当然のことながら刀を差して町を歩いたことはありませんが、着流しに二本差しで町歩きをしたらどうなるかと、時々考えることがあります。というのは袴を着けての二本差しなら、帯と何重にも巻かれた紐でかなりしっかり刀をおさえることが出来ますが、帯だけで着る着流し姿では刀をおさえておく力が弱いと思うからです。よほど気をつけていないと着物は着崩れ刀はずり落ち、みっともないことになりそうです。
 
 予防策として常に刀の柄(つか)を手や腕で押さえておく必要がありそうなのは容易に想像がつきます。あと考えられるのは、出来るだけ細くて軽い刀を二本差すか、お医者や渡世人のように一本差しにすることです。

 文化文政期の江戸文化花盛りのころの勝川派の役者絵を見ると、着流しを裾長にぞろりと着て細身の長い刀を差した侍の姿が描かれています。これが当時の美意識だったのでしょう。

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by arihideharu | 2012-02-29 23:33 | 挿絵 | Comments(0)
磁場のようなもの
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 酒井抱一という江戸琳派のお大立者がいます。徳川譜代の大名、姫路酒井家に生まれ江戸で育ちます。絵は現代の作家が描いたのではないかと思わせる瑞々しい近代性と普遍性があります。言うまでもなく琳派は桃山から江戸初期、宗達・光琳が作り上げた日本美術史における偉業です。

 よくSF映画ではタイムマシーンをビジュアル化する場合、得体の知れない大がかりな機械をでっち上げます。多くは轟音を上げ回転エネルギーを使い、光を越える高速をイメージし、針が振り切れたときに時空を越えます。

 ぼくはこれを見るたび、タイムマシーンを作るとしたら工学の分野ではないような気がしていました。

 例えば特定の美術作品には有名無名に関わらず、磁場のようなモノを持った作品があり、見ている自分が意識だけの存在になって作品の中へ吸い込まれていく感覚にとらわれることがあります。この感覚がタイムトラベルに近いのではなかと密かに思っていたからです。 

 この磁場において琳派の作品群は絶大です。しかも多くは屏風絵や小物になっていますから持ち運びが可能という点でもすぐれています。

 酒井抱一はこの琳派を現代に橋渡した人物で江戸文化爛熟期、粋人の代表格でもあります。

 さて抱一は若いとき遊里に通い、美人画を多数描いています。大名家に生まれたこの男、末は浮世絵師となり美人画や枕絵でも描いて市井の中で暮らしたいと思ったのかもしれません。

 ただこの時代、美人画の世界はかなりの激戦区で、年上には鳥居清長・北尾重政・喜多川歌麿、同世代には山東京伝。葛飾北斎も枕絵を描いていました。

 もっとも彼の描いた肉筆の美人画を見るかぎり、その中にまじって十分にやっていく腕はあったと想像します。

 とはいうものの、一世の若さま侍抱一が何かの都合でこの時点で絵を止めていたら、後世にこれほど名を知られることもなかったと思われます。何といっても、抱一は琳派に目覚めてからが彼の本領です。

 また磁力においても、この肉筆美人画は相当落ちます。これは何も抱一の力不足という訳ではなく、浮世絵における肉筆画という富裕層向けの絵全体にいえることです。やはり浮世絵は木版画に移し換え、多色刷りの錦絵になってからが本番です。

 錦絵は肉筆画のように絵師ひとりで作り上げる世界と違い、版元・彫師・刷師との共同作業です。絵師の思いどおりに仕上がることはまずありません。これは安価に多くの人々に絵を提供するため江戸人が辿り着いた方法です。これが奇跡的にあり得ないほどの磁場を発生させることになります。そして、この磁場は十九世紀末のヨーロッパ人を巻き込みます。

 錦絵の磁場は琳派の持つそれとはタイプが明らかに違います。錦絵の磁場はその後の大衆文化の魁で、絵描きの力以上に時代とか民衆の力といったものが背後にあり、後押ししたと考えられます。現代美術におけるポップアート、例えばアンディ・ウォホールと通底するものです。

 さて問題は琳派の磁場の正体です。そこでぼくは若さま絵師抱一に聴いてみようと、彼の画集をここしばらく眺めていますが、残念ながらなかなか見えてきません。

 ただ、ヒントがあります。彼が琳派を志したのは浮世絵に対する興味がなくなり、いかなる殿さまにもならないことが分かってからと考えられます。多分、俗界と距離をおくようになったことと大きな関係があると思われます。

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by arihideharu | 2012-02-06 23:55 | Comments(0)