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わくわく挿絵帖
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帰郷
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久しぶりに郷里へ帰ったときのことです
くにを出てから40年経ちます
その間、色々あったはずなのに、何にも思い出せない自分に気がつきました

身体に残る記憶は
小学校へかよう道筋です
木造の校舎が見えて、清流にかかる石橋を渡るときの清々しい朝の空気です
指先に残った、石の欄干に手を触れながら歩いたときの
ブツブツとした石のマチエールです

あるいは夏の下校時
川べりにおり、土手の割れ目から湧き出る冷水を飲んだときの
口に残った青臭ささです
その味は、あたりの草いきれが滲み出たに違いないと思うほど
夏の河原は何処も鬱蒼としていました

しかし夏は短く
振り返ると、空は高く、雲は変化にとみ
瞬く間に赤トンボは無数となり舞い
天にかざした人差し指に静かにとまった記憶が甦ります

不思議です
くにを出てから40年経ちます
その間、色々あったはずなのに何にも思い出せない自分に気がつきました

目に見えるのは
木造の駅舎と信号機もない、黒いトタン屋根ばかりの町並みです
路は曲がりくねり、町屋には明治大正の古層が見えます

商店街の細長い生家が、3Dで手に取るように見えます
居間の箪笥の位置や爪切りの置き場所
状差しや孫の手の在りかも見えます
祖母の財布から、ドキドキしなながら小銭を抜き取る小学生の自分が見えます

あるいは庭木のモミジに登るとき
最初に握る枝、次に足を掛けるコブ、最後に腰をおろす股木が見えます
下草のドクダミの白い花
シャクヤクの赤い大輪
アヤメの紫紺
熟し切ったイチジクに群がる蟻の群

おそらく人は死んでいくとき
これらの子供時代の風景が
目の前にもっとはっきり見えてくるのでしょう
by arihideharu | 2014-08-17 13:42 | 暮らし | Comments(0)