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わくわく挿絵帖
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豊穣のとき
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 子どものころ教科書に落書きをした記憶が、誰でもあるのではないでしょうか。
 挿し絵画家の仕事は、文章の隣に絵を描くことですから、紛れもなくこの(落書き)延長線上にあります。
 となるとぼくは、ずっと同じことを繰り返していることになります。
 このことにふと気がついたとき、ぼくは恥ずかしくなりました。

 今、若者たちを見ていると感心することがあります。人の気持ちを斟酌できる優しさと強さを備えている大人だなと思うことがよくあるからです。
 
 それは、不況と3.11を経験したことと関係があると思っています。
 あるいは今の時代が複雑に時空が交差した特異な周期に入り、どこかのゾーンが密かに豊穣のときを迎えているのかもしれません。
# by arihideharu | 2016-03-13 00:31 | Comments(0)
『むっつり右門捕物帖』
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 嵐寛十郎でおなじみの町方同心を主人公にすえた、古典的名作『むっつり右門捕物帖』は、原作では時代は江戸初期寛永年間となっています。島原の乱が終わって間もない、まだ宮本武蔵が生きていた時代です。
 ところが、八丁堀の同心という設定も、そもそも八丁堀は埋め立て前で存在せず、小銀杏髷に着流しに巻き羽織で肩で風切る姿は江戸末期の風俗です。
 このあたりのいい加減さは、考証本でNG集の常連として取り上げられてきました。
 そんな事情のせいか、映画やテレビでは元禄期や江戸後期に置き換えられています。
 
 小説を読みつつ、歴史情報を得る喜びを識った読者には不満の多い本です。しかしながら、講談や落語を聞くような、得難い懐かしさがあります。
 また、歌舞伎を観るにつけ、様々な時代の物や事を折衷させ、美を作り上げたワザを目の当たりにすると、佐々木味津三の『むっつり右門捕物帖』はむしろ本道で、映像制作の現場では時代考証が厳格な『半七捕物帖』などより作りやすく、原作としてむしろ優れていたといえるかもしれないと近ごろ思います。
# by arihideharu | 2016-02-18 01:37 | 映画・演劇 | Comments(0)
江戸初期の廻り方同心の格好(映画「浪人街」続き)
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 映画「浪人街」には、時代設定を江戸初期としているため、珍しい風俗が出てきます。

 そのひとつは女性の髪型です。 
 後世見る島田・勝山系の髷は珍しく、長い黒髪を輪を作って背中で結わえる玉結びか、頭のてっぺんで結わえる唐輪髷で、基本がまだ下げ髪ままです。これらはおそらく有史以来あるシンプルな髪型です。
 また衣装の方も帯は細く、腰に簡単に結んでいます。
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 さらに珍しいものが出てきます。それは風紀を取り締まる廻り方同心の格好です。
 まるで、大名家の門番のようです。すなわち、粗末な袴に両刀を差し、六尺棒を抱えているのです。
 当時の門前町は、寺社奉行の係りですから、これら役人は、当番の大名家の軽輩の務めとなります。
 身分は足軽(同心と同義)、つまり門番と同格の者たちです。風体が似ているのはそのせいです。
 彼らは、正確には侍身分ではありません。
 おそらく江戸初期の繁華街は風紀が相当悪く、戦で死ぬならともかく、正規雇用の侍たちは勿論、侍であることを自負する浪人たちも、やりたくない仕事だったと考えられます。
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 代表する盛り場の多くは社寺門前にありますから、そこで取り締まりは寺社奉行となった譜代大名家の雑兵の出番となったのでしょう。
 まだ軍政下の時代でした。 
 ちなみに、この足軽同心たちは江戸期を通じ、中世以来の臨時雇用の形態のままで、御維新になっても、当初士族の扱いを受けませんでした。

 映画『浪人街』はこの事情から、寺社方の同心たちの非力を強調し滑稽化しています。間違いなく馬鹿にしています。
 しかしながら、槍の代替品である樫材の6尺棒を振り廻されては、腕自慢の侍もてこずったはずです。

 それはさておき、この映画の類推からも、当時の町奉行所の同心も、着流しに巻き羽織ではなく、六尺棒を抱えた門番のような格好だったと考えられます。
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# by arihideharu | 2016-01-31 17:23 | 映画・演劇 | Comments(0)
新聞連載小説『うめ婆行状記』始まりました。
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 がん闘病の末、去る11月7日に他界されました、宇江佐真理さんの遺作『うめ婆行状記』が1月12日より朝日新聞夕刊でいよいよスタートいたしました。
 
 一時は完成も危ぶまれたそうですが、お亡くなりになる二日前に病床にて渾身の力を振り絞り脱稿し、ご家族に託されたそうです。
 壮絶というしかありません。

 当初は、今年の6月からの通常連載という形を予定していたようですが、急きょ短期連載という形になりました。
 
 ご冥福を祈りつつ、一生懸命描かせていただきたいと存じます。合掌。
# by arihideharu | 2016-01-13 14:20 | 挿絵 | Comments(0)
映画の中の居酒屋
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(前回、眠狂四郎/勝負の続き) 
 入って飲んでみたいと思わせる映画の中の居酒屋が、もうひとつあります。
 ご存じ「浪人街」(マキノ雅弘監督・1957年)の中です。
 
 それは大きな門前町内にあり、時代設定は江戸前期、慶安の頃と思われます。
 盛り場は戦国の風を未だ残した浪人たちと、おごり始めた幕臣の小倅たちのたまり場と化し、両派の小競り合いが絶えない雑多な世界が広がっています。
 
 店の作りが大いに変わっています。店内の床が石段になっており、奥に向かって、ゆるやかな下り坂になっているのです。
 町場の社寺が窪地や小山にあることを思えば、この居酒屋のセットは絶妙というしかありません。
 そして、店内の壁3面は棚で覆われ、下りものと分かる酒樽がずらりと並べられています。
 小金を握った浪人たちは堀部安衛兵のように升酒をあおり、丸橋忠弥のごとく酒におぼれ、店奥の谷底でトグロを巻きます。
 ここはおそらく、お酒の神様が棲む処なのでしょう。
 酔いつぶれた客の夢枕には観音様が立つらしく、恐ろしい顔のウワバミも実に幸せそうな笑みを浮かべ眠るのです。
# by arihideharu | 2016-01-08 19:17 | 映画・演劇 | Comments(0)