前に猪牙舟(ちょきぶね)について書きました。猪牙舟以上に映画やテレビで登場することのないのが屋形船です。
川開きを描いた錦絵などを見ると、両国橋とその大きさを競い合っているかのような巨大さです。船を種類分けするとすれば、屋形船とそれ以外の舟の二つに分けていいほどです。原寸大の両国橋と屋形船数隻の再現が出来たら。江戸の町の半分は出来たようなものと言えば大げさでしょうか。と言うのも川と橋が作る空間は物語を作るにしろ絵を描くにしろ、なくてはならない舞台とどうしても思えるからです。そしてそれは、江戸の町絵師達が愛した風景です。
そう言えばかつて幕末ものの映画では、明治神宮の鳥居のような恐ろしく太い橋脚をいくつか組み、その間に白い霧をふんだんに流し画面の奥にはうっすら見える洛中洛外を描くといった美しいセット撮影が幾つもありました。霧の下は鴨川という見立てでしょう。映画が作り出した様式美と言って良いかもしれません。
一方、江戸の物語では忠臣蔵のクライマックス、仇討ちが終わり赤穂義士が永代橋を渡るシーンです。永代橋は隅田川の最も河口の橋で200メートルあったとされています。片側には佃島の漁村と海が広がります。時代劇全盛時でもこれを再現するのは無理だったようです。