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わくわく挿絵帖
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江戸っ子日時計、朝ノ刻
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 江戸時代の平均引退年齢は、45才程度だったそうです。理由はこの時代、眼科と歯科がないに等しく、眼と歯の衰え方が早かったからというのです。
 
 考えてみると、近代以前はメガネがほぼありませんから、大概の仕事は出来なくなり、かつ抜歯のあとの義歯は未発達ですから、食事はかなり難儀となります。これが生活の最大阻害要因となることは、容易にうかがいしれます。
 したがって長寿で達者な者は、よほど眼と歯が傑出して良かったのでしょう。
 
 ただ、歯磨の習慣だけは急速に広まったようです。特に江戸では楊枝屋と歯磨屋の繁盛店が現れ、楊枝屋の看板娘は鈴木春信の錦絵となり、本郷あたりの歯磨屋は今に残る川柳となります。また、四代目市川団十郎を商標にした『団十郎歯磨』なる商品も現れます。
 これは大いに売れたようで、さらには『助六歯磨』菊五郎の『匂ひ薬歯磨』『沢鷹屋歯磨』なども出て、歌舞伎役者が歯磨のアイコンとなったことが想像出来ます。
 
 さらに歯磨きだけでなく、舌こきの習慣もはじまります。
 またヒット商品には砂が混じったものもあり、歯が無くなるほど磨きこみ、歯の汚い田舎者を小馬鹿にし「口を開けるな、臭い」などと言い、歯の白きを自慢する風も極まっていきます。

 歌川国貞に七代目団十郎が起きぬけに、房楊枝を使うところを描いた錦絵があります。題は『俳優日時計、辰ノ刻』。
 これはどう観ても歯磨屋の商業ポスターで、ミュシャやロートレックに先駆けています。


by arihideharu | 2018-05-08 21:25 | 挿絵
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