江戸期、上方と江戸では随分と風俗が違ったようです。
例えば、市中を商品をかついで売り歩く振り売りを上方ではすべて「ぼてふり」といったようですが、江戸では魚屋だけの呼称でした。
ちなみに「ぼて」は「はりぼて」の「ぼて」で竹細工に紙を貼ったあれです。商品を竹笊に紙を敷いて乗せたので、その容器を「ぼて」と呼んだようです。
行商といえば、廻り髪結いが持つ道具箱を上方では台箱といい、江戸では鬢盥(びんだらい)といいました。
道具箱つながりで、落語『三井の大黒』の中で、大工の道具箱を江戸ではおもちゃ箱と呼び、また大工のことは上方では番匠と呼ぶと語っています。
男の代表的帯の結び方に貝の口というのがあります。これは上方と江戸では結び目が逆だったそうです。
女性の風俗では、ハンドバック替わりの巾着袋は江戸末期になると上方では普通に使用されたようですが、江戸で見られるようになったのは明治以降でした。
江戸で流行らなかった理由として、巾着袋をブラブラさせて歩くと侍の刀の鞘にひっかかり厄介だったからだそうです。ですから手荷物は風呂敷に包み、胸にしっかり抱えて歩くのが基本でした。
何しろ、上方と江戸の大きな違いは武士の人口で、上方では全体の5パーセント前後と考えられますが、江戸では50パーセントほどあったそうですから、それは大変な違いでした。